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2023年10月9日月曜日

最終章 愛知の海で石拾いの戦い |思い出その百十五|

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最終章|思い出その百十五|


石拾いの旅|愛知県の海岸


2022年10月3日。
青い空白い雲。青森を超える石はどこや。そこに石はあるんか。数ヶ月前、諦めかけた石の旅に突如現れた愛知の海。電車で行き自転車で行き、しかしそれは青森を超えるどころか福井も超えない石の海。最初から期待はしていなかった。
その後特に新しい浜も見つけられず、遠出するタイミングもなく。ただ何かしら石を拾わないと気が済まないこのもやもやした気持ちをおさめるため、また石を拾いに行く。頭がおかしい。
そんな理由で遠くにはいけないのでまた愛知へ。しかしただ拾うのではつまらない。久々に、石拾いの戦いをやってみようと思った。石拾いの戦いってなんや。
前例がある。ずいぶん前の話になるが、福岡の社員旅行で5、6人で行った石拾い。拾った石は普通だったが、複数人で石を拾う行為はとても新鮮だった。そして普段石に興味がない人が半数いたためその動向も興味深かった。
それや。久々にそれをやってみよう。愛知の海で石拾いの戦い始まり。
実は前から愛知の知人を数人誘ってやってみようと思っていたのだが、石拾いに参加してくれる人は簡単には見つからない。石に興味がある経験者または未経験者を誘い入れ、最悪興味のない人まで無理やり参加させるしかない。そうなると私にとっては比較的近場の石スポットである福井、静岡であっても連れまわすわけにはいかない。かなり気を遣う。
誘われて石拾いになんとなくでついてきたのはいいが、やってみたらつまんない、帰りたい、と言われてしまったら私の脆い心は砕けてしまう。バーン。
なので近場の海である必要があるのだ。
しかし最近まで私が住んでいる愛知には海がないと思い込んでいたため、愛知の知人を海へ連れて行くことはできなかった。
しかし今は知っている。愛知の隠された石の海を。自転車でリサーチ済みの。さあ行こう、石拾いの戦い。

今回のメンバーを紹介しよう。まずデザイン事務所の後輩YO、次にデザイン専門学校の卒業制作展で知り合った学生HINOとその先生I。私の母校の謎肩書の謎人MO。全く関連はなく即席のなんとなく石に抵抗のなさそうなメンバー。後輩YOに関しては半強制的に参加。イシパワハラ。

石スポットの最寄り駅に集合。まず、わけもわからず呼び出されたYOが到着。YOの父はカメラマンでその意思を継ぎデザイナー兼プロカメラマンを目指しているらしい。がんばれ。いい石の写真が撮れるといいね。
しばらくするとHINOとI先生が現れた。2人は多少石に興味がある状態で参加している。I先生はHINOから間接的に石の人の説明を受けているので少々不安だ。石拾いとは何なのかが伝わっているのだろうか。楽しんでもらえるといいのだが。
そして私が学生時代から知る謎人MOは一向に現れない。普通に遅刻。すごく遅刻。
待っていたら日が暮れてしまうので4人で海に向かうことに。

ついた。三回目のこの海岸。私にとって新鮮さはない。
3人は夏以外に海に訪れることが少ないのか、どうなのか、愛知にしてはきれいな海に少し驚いていた。


早速石拾いを始める。石拾いのコツなどあるのかと聞かれたがそんなものはない。ただいいと思った石を拾うだけだ。また夢中になって拾っていれば、いい石は向こうから教えてくれる。私はここに落ちていると。
石拾い開始。

ころころころ〜。


ざざざんざん。
すでに傾く太陽光、海の音。風。
全てが心地いい。今日は最高の石拾い日和だ。

手ごろな石も落ちている。全体的に茶色っぽい石。欲を言えば、もう少し明るい石も欲しいところだ。ここの石を拾い終えて石を選抜する際、また並べて飾った時に、全体が少し暗い印象になってしまう。渋いのではなく暗い。白系やペールトーンの石が落ちているとありがたい。模様も様々だと嬉しい。

みんなは石拾いを楽しんでいるだろうか。

丸い石が少ない。もう少し角が取れた卵や飴玉やおはじきのような石。

ざらざらしているわけではなく、石の表面はつるつるしている。ただ、形がごつごつしているのだ。これは人それぞれの好みで分かれるが、海で拾うからにはどちらかというと丸みを帯びた石がいい。ごつごつした渋みのある侘び寂びを感じる石は、川で拾うのがいい。
とくに上流、中流の石はまだ自然に研磨されていないからだ。

と考えていると前から後輩のYO。なにやらうつむいている様子。石を真剣に探している?もしかしてiPhone見てる?
ショック。もう石に飽きているのかもしれない。
私は長年石を拾いすぎて石を拾う前の気持ちが思い出せない。わからない。
YO、教えてくれ、今君は石の虜になっているのかい。どうなんだい

海は輝き続けている。みんなの心は輝いているか。初めての石拾いを全身で感じているか。

私は周りを見渡しHINOと先生Iがとても遠くにいることに気づく。ずっとうずくまり、中腰で、もくもくと石を拾う二人。
この距離からでも、なにやらとてつもない集中力を感じる。特にHINOが集中している。
楽しんでくれていることに安堵すると同時に少し嫌な予感がした。TADAが福井で開眼し石に祝福されたこと、サラブレッドKが青森の石拾いで初めてにもかかわらず己の石世界を作り上げたこと、、脳裏によぎった。
HINOも同じくそのポテンシャルを持っているかもしれない。拾った石はまだ見ていない。一つも。ただわかるのだ、この感じ。とてつもない何かを秘めているかもしれない。

私は急に怖くなった。
私がここに皆を誘い石拾いとはなんたるかを教えるようなこの構図。そんな中HINOに、Iに、まさか後輩YOに、拾った石で負けてしまったらそうどうなるか。
考えただけで恐ろしい。十年ほど拾い続けた私の石の旅はなんだったのだろう。石聖(いしひじり/石の悟りを開いた者
)になれると信じ、石に向き合い続ける人生。それを今自らの手で無意味なものにしようとしている。

がくがくぶるぶる、
ころ、ころころころ〜。
ころ、、、

過去の福岡や青森の石拾いとは違う。あのときは石を拾い初めてわずか、同行者も私も立場はフラットで、純粋に石拾いを楽しんでいた。
今や石の人としてSNSで発信し続け、無知なくせに石拾いの質問がきたら偉そうに答えている。石の知識もない。

純粋な石好きから、変に石の可能性が広がったと錯覚し、石に、石拾いに、価値を見出そうとし始めている。雑念。完全に見失っている。

そして私は知っている。すでにこの雑念が石の心の50%以上を占めていると。そして知らないふりをして、純粋に石拾いを楽しんでいると自分に言い聞かせているのだ。
そしてこれも知っている。そんな雑念の中石拾いをすると、いい石を拾えないこと。脳を雑念が支配し、石拾いセンサーの解像度がどんどん低くなる。

さよなら石の人、このままでは終わりは近い。

そもそも無理に続けるものでもないのかもしれない。これは有形無形にかかわらず創造的活動のすべてに言えることだ。
人間は食べないと死ぬ。だから食欲がある。だから狩る。食物を育てる。食物を手に入れるため働く。原動力はいやでも生まれる。
しかしクリエイティブな行為の一番のエネルギー源は好奇心と探究心、その行為そのものに対する純粋な喜びである。これは無理に作るものではなく勝手に、気がついたら、意思とは関係なくそちらの方向に行ってしまう、そんな状態がいちばんいい。
なので今、石の雑念がある状態でだらだら拾っていても青森の石を越えるどころかいつの間にかその目標も見失い石拾いの心も忘れ去り、ただ機械のように石を拾う動作と石だけが残った、すべて謎の存在となってしまうのだ。謎の人。

さよなら。

本当に石拾いをしなくてもいいのか?もやもやしていると、もくもくと石拾いをするYO。
初めての石拾い。私にもかつてはあった「
初めて」。

そんなことをだらだらと考えていると遠くから女性が1人、海を眺めながらこちらに向かってくる。
遅刻をしたMOだ。遅すぎてもう忘れていた。

MOのとてつもないやれやれ感。石には全く興味がなさそうだ。呼ばれたからしょうがなく来てやった、そんな感じ。
MOはデザイン学校時代の講師、ではなくチューター。チューターとは主に生徒の課題の進捗や進路、悩みを聞いたりする主にメンタル面をケアする人だ。たぶん。
卒業してしばらくはたまに会ったりしていたが最近はまったくで、MOからしたら久々に連絡があったと思ったら石。
石は謎だが久しぶりなので訳もわからずきてくれたのだろう。しかし我々の石拾いを目の当たりにしてすでに後悔しているのかもしれない。

YO、石はひろっているかい。なかなか集中しているじゃないか。さすがカメラマンの息子、写真を取りながら器用に石も拾っている。結構日が暮れてきた。

前回も書いているがこの辺りの海にしては水質がいい。変な匂いもしない。傾いた太陽光も相まってきらきらと輝く石と海。正直言って石は特別綺麗でも、個性豊かでもない。駐車場に比べればいくらかましではあるが、その程度である。
しかし、この海岸を教えてくれたインスタのカラフルさんはこの海岸で美しい石をいつもアップしている。

そういえばTADAも、私も拾ったことのある海岸で、私には拾えない石を拾うことがある。もちろん人によって拾う石は様々だが、そんな次元ではないあきらかな差がある。それは一つに集中力、つまり先ほど書いた雑念のなさ、もう一つは同じ海岸に何度も足を運ぶことでその海岸に落ちている石の傾向や、なんとなく石の分布が見えてくるのではないかと思う。
なので私が見落としている石を(実際にはあるが私には見えてない)彼らは拾うことができる。
石を拾う時に研ぎ澄ませる石アンテナ。その周波数がそれぞれの海岸とあっているといい石が拾えるのである。

その周波数を、初めていった海岸であわせるのは至難の技だ。2、3回行くと大体わかってくるのだが、今度は別の問題が発生する。
飽きだ。傾向はわかってくるので周波数の精度は上がるのだがそれとはクロスする形で好奇心や石の目新しさがどんどんと下がっていく。これにはもちろん個人差があるのだが、私はかなり飽きっぽい。ひどい時には、一回目の石拾いで、ああ、だいたいこんな感じか。とわかってしまう(と思い込んでいる)となんだか急に何をしているのかわからなくなってくる。

きらきらきら〜。

美しい。もう、私は石拾いをやめたほうがいいのだろうか。

見渡すと、YOもHINOもIも、もくもくと拾っている。やれやれとMOもひろっているじゃないか。私だけが石に集中できず無意味な石拾い一人問答を繰り返している。

考えるな。拾え。

おまえには青森の石を超える石を探すという使命があるはずだ、そして石地図をつくり、石聖になるのではないのか。

私は思った。青森の石を超えてどうする。
日没。皆に本日の石拾い終了を伝えた。

拾った石は、こんな感じ。
これが誰が拾った石なのか記憶がない。なかなかの数を拾っている。シーグラスも一つある。正直、左下にあるような茶色の石、こんな割れたての石は私はまず拾わない。それよりその左にあるグレーの石、俯瞰の撮影で定かではないが、おそらくぷっくりと上部が膨らんでいて帽子のよう。かわいい。この石が一番いい気がする、あとは一番左上の白い石の
形が不思議。今となってはわからないが、これもよさそうだ。もっと寄りで撮影しておけばよかった。
本当は砂浜の上で綺麗に撮りたかったのだが、暗くなる前に急いでグリーンのシートの上で撮ってしまった。

次の方どうぞ。
誰だ。前の人よりもずいぶん数が少ない。貝がある。
石の数が少ない場合、理由は二つ考えられる。一つは自分の中でいい石を探すのが不得意、もう一つは、いい石の基準が高く、また選抜する前からかなり吟味しながら拾っている。初回で後者のパターンはTADAのように開眼する可能性が高い。
私は初めての海岸では結構な数を拾ってしまう。SNS上の石の方々の発言や写真を見ているとそれでも少ない方らしいが、TADAはその比ではなく少ない。

次の方。
この人も少ない。この海岸だからかもしれない。ここが福井や青森なら大量に拾っている可能性もある。黒ベースに細かい白線が走った石を好んで拾っているようだ。

次の方。
なんてことだ。なぜグレーの石ばかり拾っている。どういった指向なんだ。全く理解ができない。あえてここに小型の駐車場を作るそのマインド。これが一般化しつつある(してない)石拾いに対しての新たなる主張なのか。駐車場小宇宙派。

終わった。皆の石拾い。
そして私の石拾いの旅も終わろうとしていた。



海で拾った石|愛知県の海岸


私が拾った石はこんな感じ。並べた様がいつもと違う。
十二石。
十二石とは、私が推奨する石並べの一つである。テーマを決めて、ただ十二個の石を並べるだけだ。拾った場所でまとめて十二、色を揃えて十二、形の系統を揃えて十二、何かに見立てて十二、風景に見える石で十二、季節の十二、、。様々な十二石の可能性と調和が楽しい。ぜひ試していただきたい。
さて、この中で特に気になる石がある。中段左から二番めの石。これはおそらく珪化木だ。木が形を残したまま二酸化ケイ素(シリカ)に置き換わった、木の化石。青森で初めて出会い、存在を知り、それ以降石拾いの際は瑪瑙と同じくたまに見つけられるようになった。
まさか、愛知の海にも珪化木があるとは思いもしなかった。
さらにその左の白い石、大きな穴ぼこが空いておりそこには小さな結晶が見られる。菖蒲沢海岸でよく落ちている石だ。これも、愛知で拾えるとは思っていなかった。それ以外にも赤い石やユニークな表面の白い石など、なかなかいい石がいくつかある。
石一つの寄りの写真がなくとてもわかりづらいが、撮っていない。またいつの日か、石の人WEBにでも公開しようと思う。

石それぞれを少し離してみた。石一つの個性が際立つ。重力を感じる。

石を中央に集めてみた。海岸の状況に近い。石はまとまると一つの世界になる。

二軍の石で十二、いや十三石。現時点でここに特に気になる石はない。また一つずつじっくり観察して育てていこうと思う。石は時間が経つと味わい深くなることがある。それは私の心との関係なのか、石に物理的に何かの変化が起きているのかはわからない。おそらく前者だろう。

離して配置。


中央に集める。朝日による強い影が印象的だ。
石にはより良く鑑賞することができる配置や、時間がある。この石たちのことは、まだよくわかっていない。

愛知の石を眺めていると、終わろうとしていた石の旅は自然と続くことになる。
今日はこれでおわり。

次回は、TADAと三年ぶりの福井。





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石の人について

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今回の石の人のおすすめ

(2023 2/23)
飛騨高山のお土産で買った赤かぶ
調味料は塩、米ぬか、米酢、唐辛子のみだが美味しい
神奈川にて石拾いのお土産で買って美味しかったが
福島のお菓子だった神奈川関係なし

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おすすめの石の本

なんとなく気になる本

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